実験 10
コーヒーに落としたミルクは広がりますが、ひとりでに集まって元の 1 滴に戻ることはありません。 ところが、粒の動きを決める物理の法則には「過去」と「未来」の区別がありません。 箱の左に集めた粒を放して、逆回しもしてみてください。
粒は仕切りの左側に閉じこめられています。
| 粒の数 | そろう確率 | 1 秒に 60 回のぞいて、平均で待つ時間 | 半々のときの並び方 |
|---|
この模型の粒どうしはぶつからず、壁ではね返るだけです。位置と速さを整数で持たせているので、計算の誤差が出ず、 逆回しにすると 1 粒残らず正確に元の場所へ戻ります。
逆回しにすると、散らばった粒はきちんと左へ集まりました。粒の動きを決める法則は、時間を逆に流しても成り立つからです。 1876 年、ロシュミットはこれを理由に「エントロピーが増え続けるはずがない」と反論しました。 ボルツマンは「では、逆にしてみたまえ」と答えたと伝えられています。
ただし、逆回しが成功するのはすべての粒の向きを、ぴったり逆にできたときだけです。 正確さを「1000 分の 1 ずれる」にすると、戻りきらない粒が出ます。 本物の気体では粒どうしがぶつかり合い、ほんのわずかなずれが衝突のたびに何倍にも広がるので、 実際には原子 1 個ぶんのずれでも元には戻りません。
粒が左右どちらにいるかだけに注目すると、全員が左にいる並び方は 1 通りしかありません。
半々に分かれる並び方は、粒が 50 個でも 10¹⁴ 通りをこえます。
粒はでたらめに飛び回るだけなので、並び方の多い状態に、いる時間も長くなります。
この並び方の数の対数がエントロピーで、ボルツマンの墓には S = k log W と刻まれています。
「散らばる」のは、法則がそう命じているからではなく、散らばった状態のほうが圧倒的に数が多いから。 粒を 4 個にすると、しばらく見ているうちに、全員が左に戻る瞬間が何度か来ます。時間の矢は、たくさんの粒が集まったときに現れる、確率の性質です。
この説明は「なぜ未来に向かってエントロピーが増えるか」には答えますが、同じ理屈は過去にも当てはまってしまいます。 実際、逆回しで左に集まったあとも止めずに進めると、粒はまた散らばります。 私たちの世界でエントロピーが一方向にだけ増えているのは、宇宙の始まり(ビッグバン)が、きわめてエントロピーの低い、整った状態だったからだと考えられています。 ではなぜ始まりがそれほど整っていたのか。これは今も物理学の未解決の問題です。
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