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実験 04

1 本のうねりから、音を聞き分ける

鼓膜は膜が 1 枚しかありません。会話も物音も足し算されて、たった 1 本のうねりとして届きます。 それでも私たちは声と物音を分けて聞けます。つまみで音を組み立てながら、同じ音を 3 通りに見てください。

つまみを動かす

♪ 押すと音が出ます。先に端末の音量を下げてから「音を鳴らす」を押してください。 勝手に鳴ることはありません。図と数字だけでも実験はできます。

止まっています
220Hz
よくある形で試す
倍音の強さ(基音の整数倍。これを混ぜると音色になります)
0%

① 鼓膜が受け取る形(時間で見る)

部品の正弦波と、それを足し合わせた波 横軸は時間。薄い線が部品の正弦波、太い線がそれらを足した波です。成分の数値は下の表にあります。

波の高さ(音の大きさ)は、形が見やすいように毎回そろえてあります。

② 耳がほどいた姿(周波数で見る)

どの高さの音が、どれくらい混ざっているか 横軸は周波数、縦軸はその成分の強さ。同じ音を周波数ごとに分けて見たものです。数値は下の表にあります。
音の高さ(基音)
220Hz
鳴っている成分
1つ
いちばん強い成分
220Hz
波 1 周期の長さ
4.55ミリ秒

数字の表で見る
成分基音の何倍周波数強さ基底膜の位置

③ 耳の中のどこが揺れるか(場所で見る)

蝸牛の中の膜を、まっすぐに伸ばした図 左が入口で高い音、右が奥で低い音に反応します。丸は、いま鳴っている成分が膜のどこを揺らすかを示します。

位置は Greenwood の式(ヒトの蝸牛で、場所と反応する周波数の関係を表した実測式)で求めています。 膜の長さは約 35mm、その上に音を感じる細胞が約 3,500 個ならんでいます。

なにが起きているのか

①②③ は、どれもまったく同じ音を別の見方で描いたものです。 つまみを動かすと 3 つが同時に変わったはずです。音の正体は 1 つでも、見方は 1 つではありません。

フーリエが見つけたこと

19 世紀のはじめ、ジョゼフ・フーリエは熱の伝わり方を調べていて、こう主張しました。 繰り返す形の波は、どんなに複雑でも、正弦波の足し算で書ける。 当時は「そんなカクカクした波が、なめらかな正弦波の足し算になるはずがない」と受け入れられませんでしたが、正しかった。 ①でのこぎり波や矩形波を作ってみてください。角ばった形が、正弦波を足していくだけで現れます。

②はその逆向きの操作です。できあがった波を見て「どの正弦波が、どれだけ入っていたか」を言い当てる。 これがフーリエ変換で、音の分析から画像の圧縮、通信まで、いまも至るところで使われています。

耳は、それを機械でやっている

驚くのはここからです。耳の奥のかたつむり管(蝸牛)の中には、長さ 3.5cm ほどの膜が伸びています。 この膜は入口側が硬くて細く、奥へ行くほど柔らかく幅広い。 そのため高い音は入口付近だけを、低い音はいちばん奥だけを揺らします。 ピアノの弦が並んでいて、鳴らした音に合う弦だけが勝手に共鳴するのと同じです。

つまり「どの高さの音か」が「膜のどの位置が揺れたか」という場所の違いに変換される。 ③の図がそれです。脳へは「どの高さが、どれくらいの強さで鳴っているか」という一覧が届きます。 計算で解いているのではなく、硬さの変化だけで分解しているところが、この仕組みのすごさです。

ほどいたあと、束ね直す

ただし、ばらしただけでは「たくさんの高さの音が鳴っている」という状態にすぎません。 そこから「これは声、これは皿の音」とまとめ直すのに、脳はいくつかの手がかりを使います。

最初の手がかりは、この装置で確かめられます。「仲間はずれの成分」のつまみを上げてみてください。 2.7 倍という整数でない比の成分が加わると、波は相変わらず 1 本なのに、 別のものが鳴っているように聞こえはじめます。倍音を同じ強さだけ足したときとは、印象がまるで違うはずです。

音色を決めているのは倍音の混ざり具合だけではありません。もうひとつ大きいのが鳴り始めの一瞬で、 ピアノの音から最初の 0.1 秒を切り落とすと、多くの人はピアノだと当てられなくなります。 この装置はずっと同じ形を鳴らし続けるので、その効果は入っていません。

式で書くと、①は y(t) = Σ aₙ sin(2π n f t)(フーリエ級数の、正弦だけの形)。 ②はその aₙ を並べたもの。③の位置は Greenwood の式 f = 165.4 × (10^(2.1x) − 0.88)(x は奥からの割合)です。 なお実際の耳は、ここまできれいに分解できるわけではありません。 ごく短い音では周波数を細かく特定できない(時間と周波数はどちらも同時には細かくできない)という 避けられない限界があり、蝸牛の分解能も低い音ほど細かく、高い音ほど粗くなっています。

つづけて動かす