実験 04
鼓膜は膜が 1 枚しかありません。会話も物音も足し算されて、たった 1 本のうねりとして届きます。 それでも私たちは声と物音を分けて聞けます。つまみで音を組み立てながら、同じ音を 3 通りに見てください。
♪ 押すと音が出ます。先に端末の音量を下げてから「音を鳴らす」を押してください。 勝手に鳴ることはありません。図と数字だけでも実験はできます。
波の高さ(音の大きさ)は、形が見やすいように毎回そろえてあります。
| 成分 | 基音の何倍 | 周波数 | 強さ | 基底膜の位置 |
|---|
位置は Greenwood の式(ヒトの蝸牛で、場所と反応する周波数の関係を表した実測式)で求めています。 膜の長さは約 35mm、その上に音を感じる細胞が約 3,500 個ならんでいます。
①②③ は、どれもまったく同じ音を別の見方で描いたものです。 つまみを動かすと 3 つが同時に変わったはずです。音の正体は 1 つでも、見方は 1 つではありません。
19 世紀のはじめ、ジョゼフ・フーリエは熱の伝わり方を調べていて、こう主張しました。 繰り返す形の波は、どんなに複雑でも、正弦波の足し算で書ける。 当時は「そんなカクカクした波が、なめらかな正弦波の足し算になるはずがない」と受け入れられませんでしたが、正しかった。 ①でのこぎり波や矩形波を作ってみてください。角ばった形が、正弦波を足していくだけで現れます。
②はその逆向きの操作です。できあがった波を見て「どの正弦波が、どれだけ入っていたか」を言い当てる。 これがフーリエ変換で、音の分析から画像の圧縮、通信まで、いまも至るところで使われています。
驚くのはここからです。耳の奥のかたつむり管(蝸牛)の中には、長さ 3.5cm ほどの膜が伸びています。 この膜は入口側が硬くて細く、奥へ行くほど柔らかく幅広い。 そのため高い音は入口付近だけを、低い音はいちばん奥だけを揺らします。 ピアノの弦が並んでいて、鳴らした音に合う弦だけが勝手に共鳴するのと同じです。
つまり「どの高さの音か」が「膜のどの位置が揺れたか」という場所の違いに変換される。 ③の図がそれです。脳へは「どの高さが、どれくらいの強さで鳴っているか」という一覧が届きます。 計算で解いているのではなく、硬さの変化だけで分解しているところが、この仕組みのすごさです。
ただし、ばらしただけでは「たくさんの高さの音が鳴っている」という状態にすぎません。 そこから「これは声、これは皿の音」とまとめ直すのに、脳はいくつかの手がかりを使います。
最初の手がかりは、この装置で確かめられます。「仲間はずれの成分」のつまみを上げてみてください。 2.7 倍という整数でない比の成分が加わると、波は相変わらず 1 本なのに、 別のものが鳴っているように聞こえはじめます。倍音を同じ強さだけ足したときとは、印象がまるで違うはずです。
音色を決めているのは倍音の混ざり具合だけではありません。もうひとつ大きいのが鳴り始めの一瞬で、 ピアノの音から最初の 0.1 秒を切り落とすと、多くの人はピアノだと当てられなくなります。 この装置はずっと同じ形を鳴らし続けるので、その効果は入っていません。
式で書くと、①は y(t) = Σ aₙ sin(2π n f t)(フーリエ級数の、正弦だけの形)。
②はその aₙ を並べたもの。③の位置は Greenwood の式
f = 165.4 × (10^(2.1x) − 0.88)(x は奥からの割合)です。
なお実際の耳は、ここまできれいに分解できるわけではありません。
ごく短い音では周波数を細かく特定できない(時間と周波数はどちらも同時には細かくできない)という
避けられない限界があり、蝸牛の分解能も低い音ほど細かく、高い音ほど粗くなっています。
同じ空気が、翼のまわりではどう振る舞うのかを見る実験です。
電波も波。届くまでの時間が、そのまま距離に化けます。