実験 07
「翼の上を通る空気は遠回りなので、下の空気に追いつくために速くなる」。 よく聞くこの説明は、じつはまちがいです。 空気の粒を流して、上と下の空気が本当に同時に後ろへ着くのか、見てみてください。
失速しています。 傾けすぎると、空気が上面に沿いきれずに途中ではがれ、渦になって次々に流れ去ります。 はがれた所は空気がよどみ、上面を引っぱる力が失われるので、揚力が急に落ちます。 渦の動きは、見せるために描いたイメージです。この模型は空気のねばりを持たないので、読み取り欄とグラフの数値は「はがれない」と仮定した計算のままです。
空気は左から水平に流れてきます。傾き(迎え角)は、その流れに対して翼の前を持ち上げた角度です。 翼の前後の長さ(翼弦)を 4 m、空気の密度を地上の 1.225 kg/m³ としています。 流れは「ジューコフスキー変換」という方法で、この翼の形のまわりを厳密に計算したもので、 後ろ縁で流れがなめらかに離れる条件(クッタの条件)を入れています。 空気のねばり(粘性)は入れていないので、空気抵抗と失速は計算からは出てきません(失速の渦はイメージとして描き足しています)。
図をなぞると値が読め、押すとその傾きに合わせられます。
| 迎え角 | 揚力係数 | 翼 1 m² が持ち上げる重さ |
|---|
空気の列を流すと、上を通った粒は下を通った粒よりずっと先に後ろ縁へ着きます。 上と下の空気が後ろでまた出会う理由はどこにもなく、実際にも出会いません。 風洞の実験でも、煙の列を流すと同じことが見えます。 「遠回りだから速い」は、速さの向きも理由も取りちがえた説明です。
翼のまわりの流線を見ると、翼の前では空気がわずかに持ち上がり、後ろでは下へ曲げられています。 空気を下へ押しやれば、その反動で翼は上へ押されます(作用・反作用)。 一方で、流れを曲げるには曲がりの内側と外側で圧力が違っていなければなりません。 翼の上は圧力が低く、下は高い。この圧力の差が翼を持ち上げ、同じ差が空気を曲げています。
「ベルヌーイの定理で飛ぶのか、作用・反作用で飛ぶのか」という論争がありますが、 いまの航空力学ではどちらも同じ現象の 2 つの見方とされています。 圧力の差が流れを曲げ、曲がった流れがその圧力の差を保つ。原因と結果が一方通行ではなく、互いに支え合っている、というのが近年の教科書的な説明です (たとえば D. McLean『Understanding Aerodynamics』2012)。
空気にはわずかなねばりがあるため、とがった後ろ縁を急に回り込むことができません。 流れが後ろ縁からなめらかに離れるように落ち着くと、翼のまわりには 「上は速く、下は遅い」という回る流れ(循環)が重なります。 飛び始めの瞬間には、その反対回りの渦が後ろに残されます(出発渦)。 形のわずかな違いではなく、この循環の強さが揚力を決めます。
「そり」を 0% にしても、傾き(迎え角)を付ければ揚力は出ます。 曲技飛行機が背面飛行できるのも、機首を上げて翼に傾きを付けているからです。 そりは、小さな傾きで効率よく揚力を出すための工夫です。
旅客機の離陸はおよそ時速 250〜300 km。大型の旅客機は翼 1 m² あたり 600〜750 kg ほどを支えていて、 離陸や着陸のときはフラップを出して翼のそりを大きくし、遅い速さでも揚力が足りるようにしています。
飛ぶのと落ちるのは裏表。空気があるとどうなるかを見てください。
空気の振る舞いをもう 1 つ。音は、空気のうねりです。